中川さんがいつも思っていることを伝えたいと、珍しく長い文章を書いてくださいました。
いつもお料理ばかり作っていて、なかなかこのようなお話をする機会がないものですから、公開授業として記事にさせていただきます。
むそう塾に学んでくださっている方は勿論のこと、まだ一度もお会いしたことのないあなたも、何年もマクロビオティックをされている方も、そして、マクロビオティックが初めてという方も、みんなで「家庭のお食事」を考えてみましょう。
皆さんの様々なご感想をコメント欄に残していただけたら嬉しいです。
<以下文章:中川善博>
【味付けの指向性の話】
指向性というと音や光などに使われる言葉でありますが、私は料理を考えるときに「味付けの指向性」という使い方をしています。
どういう意味かお話します。
いま、あなたが作っているお料理は誰が食べるのでしょう?
おそらくはご主人、お子様といった「家族」という社会構成の最小単位に属する人たちに食べさせるために作っているのではないでしょうか?
それに対して街へ出かけてレストランや料理屋に入ってメニューを見て注文した料理はどうでしょう?
その店のキッチンにいる人と昔から懇意にしている場合をのぞいて殆どの場合、誰が作っているか、または誰が食べるのかは判らない、ということになります。
その料理を食べてもらう対象は「お客様全員」となります。
何名、何百名、何千名かもわかりません。
商売用の味付けは昔から「10人のうち6人が美味しいと言えば繁盛する」といわれており、それほど全員に喜んでもらえる味付けは難しいのです。
この6/10の味付けを指向性の低い味付けと呼んでいます。
もっと指向性の低い味付けがあります。
なにかわかりますか?
それは低価格戦略をとっている外食産業です。
堂々と特別に美味しくなくても構わないという意味で、「不味くなければ良い 安ければ」という戦略をとっている会社がありました。
私には違和感アリアリでどうしても納得できなかったのを覚えています。
「費用対効果」便利な魔法の言葉です。
【料理と調理】
味付けの指向性のお話と通じる事でもあります料理と調理の違いについてもお話しておきましょう。
大雑把ですが、不特定多数の方へ提供するものは調理、誰が食べるのか判っているものは料理、と私は使い分けています。
「調理」は、コンビニエンスストアに並ぶたくさんのお弁当、ファミリーレストランのメニュー、社員食堂の献立、学校給食などなど。
食べる人の顔が見えない判らない状態で作るので、無難で大ハズレがないように作られています。
「料理」は、この味をこの人に食べてもらいたい、このお客様は関西出身だからすこし色目を薄く仕上げて、最近子供がクラブでレギュラーになって運動量が増えたのでタンパク量を増やそう、主人は昨日飲み会だったので消化の良い陽性なものを少量で、という風に、食べる人の顔が見えている、判っている場合に使うべきだと思っています。
ですから調理師と料理人では自ずと仕事が違うのです。
もちろんどちらが上とか下とかはありません。
【陰陽料理(マクロビオティック料理)と和食】
私達は日本に住んでいて、日本人である桜沢氏が提唱したこともあり、マクロビオティックというと玄米菜食を厳しく実行することのように誤解しがちです。
しかしそれは大きな間違いで、マクロビオティックというのは生き方の事であるのです。
生きるためには「食う」ことが必須であるために、マクロビオティック実践者のための料理が重んじて語られてしまうのです。
そしていつの日かマクロビオティックという大いなる偏食が全てであるかのように、前に出てきてしまったのです。
玄米菜食が世界で一番素晴らしいのであれば、世界中で玄米菜食をすればいいのか? そんなことはありませんよね?
地球上には米が出来ない地域もありますし、野菜が育たない土地もあります。
そこに住んでいる人はマクロビオティックは実践できないのか? 変な話です。
西洋人がヨーロッパで玄米を炊いて漬物を食べて味噌汁を飲んで、それを何代も何代も続けるのでしょうか?
そうではありません。
ヨーロッパにはヨーロッパで何百年と食べ続けられてきた伝統料理があります。
その土地がもたらしてくれる作物をその土地の陰陽とその土地に住む人間の体調を考えながら料理をする。
これがマクロビオティック料理です。
むそう塾では、食べてくれる人が陰陽バランスを取りやすく、中庸からやや優しい陽性に生きていける料理をお教えしています。
これを陰陽料理と呼んでいます。
中川善博が和食の料理人出身でありますゆえに、京料理やおばんざいからの献立をお教えしていますが、陰陽料理は決して和食だけで作るものではありません。
赤道直下の国には赤道直下の環境に則した陰陽バランスがあります。
野菜も穫れないような北限南限にも、北限南限なりの陰陽バランスがあります。
日本の玄米をアラスカに持って行って梅干しで食べるのが陰陽料理ではありません。
そこを誤解しないようにしましょう。
女性が家庭を守って男性が外に働きに出て給料を持ち帰り、家族を養う。
今となっては「サザエさんのはなし?」なんて笑われるほど夫婦共働きが当たり前になりました。
共働きが当たり前になったとはいえ、ご主人が家事も共働きしてくれているご家庭はまだまだ少ないのではないでしょうか?
同じように外で働いてきた奥さんが家族の食事を準備します。
手間のかかる料理などできるわけもなく、簡単に数品を作り、あとは帰宅途中にデパ地下などで買い求めた「中食」と呼ばれる調理済みのおかずです。
それを皿や鉢に移して(へたをするとパックのまま)食卓に並べます。
タイマーで炊きあがったIH炊飯器には陰性な白米があり、保存料がたっぷり入ったパック入りの漬物には乳酸菌など在るはずもなく、あればいいというレベルで大事な食卓を満たすのです。
中食やインスタントや保存料の入ったおかずは主婦の忙しさ、時間の無さを補います。 それは言い換えれば時間を創りだしているのです。
しかしどうでしょう。
苦労して時間を創ったつもりなのに、この食べる人の事を考えていない調理品を何年もの間食べていてずっと健康でいられるのでしょうか?
遅かれ早かれこの家族は病院や薬の世話になっていくでしょう。
そうして、創ったはずの時間がブツッ!と切れてなくなっていることに気づくのです。
世の中にマクロビオティックスクール、マクロビオティッククッキング、などがたくさんあり、前述した不健康な食生活を悔い(喰い)改めようと、多くの女性達が毎日のように学びに通っておられます。
そこで習うのは手作りの良さ、添加物、動物性食材や乳製品の禁忌。
私の眼にはどんな体質、体調の人にも同じような一辺倒な調理法を教えているように見えてしまいます。
何%かの人にはドンピシャでマッチするので、奇跡のように体調が良くなって感謝のはがきがこんなに届きました!状態になるでしょう。
そしてそのスクールはそのはがきだけをアピールして宣伝します。
またそれを見て体調の悪い人が引き寄せられる。
必要以上に陰性に振られた体調はどんどん正氣をなくし、女性は貧血になり生理が止まり、生干しのミイラのようになります。
毎月毎月愛クラスにはそんな生干しさんが来られます。
そして美風さんのメールボックスは、まるで駆け込み寺のように生干しメールが積み上げられていきます。
そんな無責任な指導をしてるから、トンデモ理論とか、なんちゃってダイエットとか非難を浴びるのです。
桜沢氏も大森氏もそんな指導は決してしていなかったはずです。
ちゃんと1人1人と向き合って、その人オリジナルの指導をし、その結果を鑑みてさらなるフォローを重ねる。
ここまでやって初めてマクロビオティックな指導といえるのではないでしょうか。
そんな今夜もどこかで、塩を減らして肉を抜いて甘いものは止められない生干しミイラが誕生しているのです。
(むそう塾 塾長)
(寒桜 宝泉 京都駅店)