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食生活欧米化の真の原因
昨年、食物史研究家の鈴木猛夫氏にお会いできました。
その時、「アメリカの小麦戦略」について、詳しくお話を伺うことができたので、一部分をご紹介しますね。
まず、食生活欧米化の原因を知るには、1945〜1955年代(昭和20〜30)の、アメリカの国内事情をみる必要があります。
アメリカは、広大で肥沃な農地から大量生産される農産物を、戦前から諸外国に輸出してきました。
第二次世界大戦中はヨーロッパ・アジアの兵食として、戦後は、ヨーロッパ復興計画(マーシャルプラン)としてヨーロッパ諸国に輸出されました。
また、昭和25年に始まった朝鮮戦争でも、兵食として大量消費されます。
しかし、昭和27年にマーシャルプランが、そして28年に朝鮮戦争が終結すると、大量のアメリカ農産物は行き場を失ってしまいました。
さらに、昭和28、29年は、世界的に小麦の大豊作だったため、大量の農産物が余ってしまい、政府が借りる倉庫代だけでも1日2億円、一部は路上に野積みしてシートをかけて保管という状態でした。
アメリカ大統領は農民票が決めるとも言われるほどで、当時のアイゼンハワー大統領は、カンザス州の農村出身で、何としてでも早急な余剰農産物対策が、急がれていたのです。
そこで昭和29年、アメリカでPL480法案(通称 余剰農産物処理法)が成立し、発展途上国に有利な条件で余剰農産物を輸出しようと図ったのです。
その骨子は次のとおり。
1)アメリカ農産物をドルでなく、その国の通貨で購入でき、しかも代金は後払いでよい。
2)その国の政府が、アメリカから代金後払いで受け入れた農産物を、その国で民間に売却した代金(見返 り資金)の一部は、アメリカと協議の上経済復興に使える。
3)見返り資金の一部は、アメリカがその国でのアメリカ農産物の宣伝、市場開拓費として自由に使える。
4)アメリカ農産物の貧困層への援助、および学校給食への無償贈与が出来る。
日本にしてみれば、戦後復興のままならぬ財政難の中で、まさに渡りに船の法案だったのです。
日本は、この条約を結べば多額の資金が得られるとして、2回の条約締結で、総額600億円あまりの余剰農産物を受け入れ、それを国内で販売し、その代金(見返り資金)の7割ほどの復興資金を獲得して、戦後復興の足がかりを得たのでした。
しかしアメリカの狙いは、見返り資金の一部を日本における農産物の市場開拓費として使い、日本に永続的に農産物を輸出することだったのです。
そこでアメリカは、このお金を使って、日本人の主食を米から小麦(パン)へと、大転換させる作戦に乗り出しました。
昭和30年、日本はアメリカ側が提案した粉食奨励、定着化を図るための11項目の事業計画書を承認しました。
金額の多い順から並べると、次のとおり。
1)粉食奨励のための全国向けキャンペーン費用…..1億3,000万円
2)キッチンカー(料理講習車)製作、食材用…..6,000万円
3)学校給食の普及拡大…..5,000万円
4)製パン技術者講習…..4,000万円
5)小麦粉製品のPR映画の製作、配給…..3,300万円
6)生活改良普及員が行なう、小麦粉料理講習会の補助…..2,200万円
7)全国の保健所にPR用展示物を設置する費用…..2,100万円
8)小麦食品の改良と新製品開発費用…..2,100万円
9)キッチンカー運行に必要なパンフレット等の作成費…..1,500万円
10)日本人の専任職員の雇用…..1,200万円
11)食生活展示会の開催…..800万円
総額約4億2,000万円
これは、現在の予算規模に単純換算すると、260億円に相当するとの説もありますが、このお金がアメリカから日本側に活動資金として渡されて、日本人の主食を粒食(米)から粉食(小麦)へと方向転換させる大事業が着手されたのでした。
日米が共同して最初に取り組んだのが、キッチンカーの運行です。
大型バスを改造して、野外で料理講習会が出来るようにし、5年間で全国2万会場、200万人を動員した「栄養改善運動」の大キャンペーンを実施したのです。
これは、それまでの「ご飯に味噌汁・漬物」という日本人の伝統的な食生活を、欧米型に転換させる栄養改善運動のかなめとなりました。
アメリカは、必ず食材に小麦と大豆を使うことを条件に、すべての費用を出したのでした。
しかしキッチンカーで、一生懸命洋食普及のために働いた栄養士・保健婦らには、資金の出所は内緒にされたため、彼女らは、厚生省の仕事と解釈していたのです。
もちろん、国民にも知らされていませんでした。
この「栄養改善運動」の資金がアメリカから出ていたことは、今でもタブーになっていて、栄養学校でもこの大事な点が教えられていないので、食生活欧米化の真の原因について、分からないままなのです。
主食がパン(粉食)になると、おかずはおのずと肉・卵・牛乳・乳製品・油料理という欧米型食生活になる傾向があり、それらの食材の供給元であるアメリカの狙いはそこにあったのです。
まず、アメリカからパン職人が来日し、パン職人養成講座が頻雑に開かれ、宣伝カー、セスナ機まで使って、大々的なパン食普及活動が行なわれました。
また、学校給食では小麦・脱脂粉乳が無償援助され、アメリカの狙い通り、パンとミルクの給食が定番となりました。
また、大豆を消費してもらうためには、油いため運動(フライパン運動)が奨励されたのです。
それまで、油料理は一般的ではなかったのですが、急に油の利用が勧められました。
さらに、家畜飼料のトウモロコシ、大豆カスを消費してもらうために、牛乳・肉・卵・乳製品等々の消費が勧められ、それらは良質なタンパク質であるとか、牛乳はカルシウムの吸収が良いなどという、一見科学的な栄養教育が熱心に啓蒙されました。
キッチンカーの運行が軌道に乗ると、続いてアメリカは学校給食に力を入れます。
その結果、学校給食で味を覚えた学童達が、いま日本社会の中枢にいて、パンとミルク・肉類という欧米型食生活は定着し、アメリカ小麦戦略も栄養改善運動も成功したのです。
アメリカの提案した粉食奨励11項目を承認してから50年。
日本で消費される小麦・大豆・トウモロコシの9割以上が、アメリカをはじめとする外国からの輸入となってしまいました。
* * * *
本題からは外れますが、アメリカ農産物の生産に、今暗い影がさしているのです。
アメリカ型の収奪的大規模農業では、多くの化学肥料は投入しても、有機肥料を土にすき込むことはありません。
そのため、黒土が次第に減少して、保水力を失ってしまったために、少しの雨でも黒土部分が流れ出してしまうのです。
これが「表土流出」で、今アメリカ各地の農地で深刻な問題になっています。
さらに、地下水枯渇も問題になっています。
アメリカの農地に不安があれば、日本人の食生活がこのままで良いわけがありません。
日本国内で収穫できるお米と野菜などに、日本人の食生活が移って行くのは、単に健康上の問題だけでなく、自給率や地球全体の問題としても、避けられない時代になっているように思います。
マクロビオティックを勉強して、健康・環境・地球・平和を考える私達は、ちょうど食生活を根本的に見直さなくてはいけない時代に巡り合いました。
ロハスの人も、ホールフードの人も、ちょっとした違いは乗り越えて、ともに日本の食生活に警鐘を鳴らしませんか?
今年が、そんな年になりますように、心から願っています。
* * * *
※なお、この問題について詳しくお知りになりたい方には、下記の本をお勧めします。
「『アメリカ小麦戦略』と日本人の食生活」(藤原書店 2,200円)
学芸総合誌・季刊『環』2004年冬号(Vol .16)特集「『食』とは何か」
(ともに鈴木猛夫著)
カテゴリー: 食べたもののようになる, マクロビオティックが楽しい♪, からだ
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