大森英櫻先生の講義を拝聴していると、その知識や体験の深さにひれ伏すと同時に、その理論的な説明に感動したものです。
よく私の隣に座っていた女性は病院にお勤めでした。
その人は「大学で習った発生学は難しくてつまらなかったけれど、大森先生の発生学は面白くて解りやすい!」と興奮気味に話していました。
二人で心躍らせて学んだ日々が懐かしいです。
当時一つだけ不満がありました。
それは教科書がないこと。
それまでの私は教科書をじっくり読んで、行間すら読む勉強方法を良しとしていたからです。
それは法律を学ぶときに徹底的に身につけた方法でした。
しかし大森先生は本を書いておられなかったのです。
こんなに知識と経験がおありなんだから、全集としても出版できるだろうにと不思議でなりませんでした。
ある日大森先生に直接お尋ねしたのですが、その時にはいただいたお言葉を十分理解することは出来ませんでした。
それは「どうしてそうなるんだろう?」というレベルの話で、その本当の意味が理解できたのはむそう塾を始めてからです。
そのくらい体験してみなければ理解できない理由によるものでした。
それは次のような理由によります。
「体質は食生活の変化とともに変わってしまうので、今の自分の理論は後世の人には誤りとなる危険性があるため、病気治療についての見解は残しません。宇宙の法則=自然界の法則(陰陽)が残ればよいのです。」
どうですか?
私はこの言葉の意味を理解するのに何年も費やし、今まさにむそう塾生を前にして「宇宙の法則が残ればよい」ことを伝えようとしています。
多くの人を見ていつも思うことは、体調に関するアドバイスは二人として同じ内容はないということです。
それを知り尽くしておられた大森先生だからこそ、文字として残すことはされなかったのだと、今は心底から納得出来ます。
幼稚な質問にニヒルな笑いを浮かべて答えられた師の姿を一生忘れることはありません。
(玄米ご飯 by 中川善博)