正露丸というと、昔はどのご家庭にも1瓶はありましたよね?
もしかしたら、今でも在庫のあるご家庭があるかもしれません。
私の実家にもありました。
独特のあの変な臭いがイヤでしたが、どこかでフッとあの臭いを嗅ぐと、妙に懐かしさが蘇ってくるのですから困ったものです。
クスリであることに変わりはないのに。
ところが、その正露丸が、実はとても危険なクスリだってご存知でしたか?
ーー「正露丸」は元もとは「征露丸」といって日露戦争に出向く兵隊さんに「極寒の地でもお腹をマヒさせて戦え」という医薬品とは思えないドーピング剤だったーー なんて怖すぎます。
少し古い記事ですが、大事なことなのでリンクしておきます。
(改行はMacとの互換性の関係で私が変えました。)
<引用開始>
14歳の男の子が重症の腸炎で入院しました。軽い食中毒様症状があったので、自宅にあった正露丸でやり過ごしているうちに3日たち発熱、腹痛をがまんできなくなり、当院受診後入院となったものです。
当院では、食中毒の起炎菌推定、重症度把握、菌体の洗浄回収のため、大腸内視鏡を通常行っていますが、今回は興味深い所見を確認しました。内視鏡所見 は、キャンピロバクター腸炎ですが、その炎症所見が極めて強く、腐食様の変化もありました。そして、大腸内に6ミリ大の黒色球状物を認め、そのひとつをサ ンプルとして回収したところ、正露丸独持の刺激臭を認めました。正露丸で麻痺した腸管内にキャンピロバクターが異常繁殖し、正露丸の粘膜腐食作用と共に腸 炎を悪化させたようです。その証拠に内視鏡で大腸を洗浄し正露丸を除去しただけで、翌日から自他覚所見は改善しました。
正露丸の作用は、その毒性の発現用量で現れます。すなわち腸管運動が神経毒によりマヒして下痢が止まり、知覚神経が神経毒により解離して腹痛を感じなくなります。虫歯に詰めると痛みがなくなるのも同じ原理です。
「正露丸」は元もとは「征露丸」といって日露戦争に出向く兵隊さんに「極寒の地でもお腹をマヒさせて戦え」という医薬品とは思えないドーピング剤だった そうです。毎年のようにマヒ性イレウス、腸壊死、腎不全などで手術や透析にいたる例など正露丸の害が報告されていますが、テレビコマーシャルは全く使用上 の注意事項を知らせません。
医薬品集などで正露丸の主成分クレオソートを調べると「歯内にのみ使用し、口腔粘膜に付着した場合、腐食する場合があるので直ちに洗い流すこと」と記載されており、服用など論外なようです。
一家にひとつはあると言われる正露丸には“注意”しましょう。
(本件は、大分市医師会医学会総会で発表しました)
(民医連新聞2002年12月1日/1294号)
くすりの話し 危険な正露丸の服用(2) 宮地典子(薬剤師・東京)2003.1.21
12月1日号、正露丸の記事に驚きの声をたくさんいただきました。今回は、その成分について薬剤師に聞きました。
◇ ◇
正露丸の主成分はクレオソートで防腐作用があるとして、日露戦争のころから下痢止めなどに使われてきた古い薬です。有効性や危険性については検証のないまま、現在に至っています。
クレオソートとは、消毒薬として知られているクレゾールをはじめとするフェノール系化合物の混合物です。フェノール系化合物は細胞のタンパク質を変質さ せて細胞を障害する作用をもっています。クレオソートは「日本薬局方」にも収載されていますが、その「本質」の項には「歯科用消毒薬 殺菌・防腐薬」(第 十四改正)と記載されています。
クレオソートの危険性はその本質からも予測されますが、常用してもよい量と害になる量(中毒量)との差が少ないという問題があります。効かないからと いって連続して服用すれば、即中毒量に達することになります。実際に腹部不快で正露丸を7日間で250個(常用量の四倍)服用し、腸管壊死を起こして切除 術を受けた症例が報告されています。
また、正露丸の添付文書には、「本剤が誤って皮膚に付着した場合は、せっけん及び湯を使ってよく洗って下さい」と書いてあります。なぜ、このような毒性を持つ物質が内服用の一般用医薬品として販売され続けているのでしょうか。
医薬品の承認基準については、薬害スモン訴訟を契機に一九七九年に薬事法が改正され、承認規定の整備、再評価制度が法制化されました。その後一般用医薬 品は薬効ごとに承認基準が制定され、その基準に収載されている成分は、品質に関する試験のみで販売が許可されます。しかし、この承認基準は、クレオソート のように、古くから経験的に使用されてきた薬については、厳密な評価なしに基準化されており、その後、問題点が指摘されても再評価が行われていないという 実状があるからです。
今、セルフメディケーションの推進を理由に、一般用医薬品の承認審査の規制緩和をすすめる動きがあります。承認審査の合理化ではなく、まず、効かない薬や危険な薬の再評価を実施することこそ急務です。
医療用・一般用を問わず、薬は私たちの体にとっては「毒物」であり、その毒性を「効果」として逆利用しているのです。使い方や使用量次第で、常に「毒物」として作用することはどんな薬にもいえることです。
(民医連新聞 第1298号 2003年1月21日)
<引用終了>