本当はきのう、「きょうは特別な日 父の涙」の記事に書きたかったことなのですが、やはり父の涙は別格のものだから、別記事にしようと思ったことをこれから書きます。
私には二人の姉と一人の兄がいるのですが、その三人は昭和10年代の生まれです。
姉や兄たちは、父が何年かおきにちょっとだけ帰って来た時に妊娠した子どもです。
お腹が大きくなってきた頃、父は招集されて行くのでした。
兄は父が満州にいる時に生まれたそうで、父が帰国した時にはもう5歳になっていたのだとか。
私だけが妊娠から出産まで、そして、ずーっと父がいる中で育ててもらいました。
父はとても子煩悩だったので、小さい時はいつも私を膝の中に抱えてご飯を食べさせてくれました。
おんぶされていたのも、母ではなく父の背中でした。
父の背中で見た夕焼けの美しさを、なぜか覚えています。
母は私を産む前から体調が悪かったのですが、「うちには男の子が一人しかいないから、もしまた戦争が始まったら跡取りがいないことになってしまう。」と言って、お医者さんが反対するのに、頑張って私を産んだのだそうです。
それなのに産んでみたら女の子だったわけで、人生って思うようにならないものです。
でも、その後戦争もなく、父も母も95歳まで生きてくれたので、安心して逝ってくれたと思います。
母は父のいない中で出産をして、子どもたちを育てている間に肋膜を患っていたそうで、床に伏せながらの子育ては本当につらかっただろうと思います。
終戦になったといっても父は帰ってこないし、死んだ知らせも来ない生活は、私には想像の出来ないつらさだったことでしょう。
昭和23年、やっと父がシベリアから帰って来ました。
しかし、駅に迎えに行ってくれた父の兄は、自分の弟がどこにいるのか分かりません。
父の方がお兄さんを見つけて、「兄さん、俺だよ」と言ったそうです。
父は、極度の栄養失調から歯はすべて抜け落ち、ガリガリに痩せて、実のお兄さんでも弟だと思えないくらい別人になっていたのだとか。
文字どおり、命だけ持って帰ってきた父なのでした。
父も母も戦争当時のことは、あまり多くを語りませんでした。
きっとつらすぎて、思い出すのもいやなのでしょう。
いや、もしかしたら、そんなことを語る暇もなかったのかもしれません。
とにかく働き者の夫婦でした。
正直を絵に描いたような夫婦なので、要領よく生きることも出来ず、ただひたすら汗を流して働いていました。
今のように、家族旅行が当たり前の時代ではありませんから、夏休みであっても旅行どころか、むしろ子どもたちは家業を手伝う重要な人手だったのです。
こうして私は、幼いときから働くのが当然と思って生きて来ました。
二足のわらじを履きながら働くのが当たり前の私でした。
そのまま今も働き続けています。
きっとこれからも、健康が許す限り働き続けることでしょう。
仕事ばかりしている両親をみても、私は寂しくありませんでした。
ちゃんと愛情は感じていたし、着るものも食べるものも母が手作りで用意してくれました。
その姿を見ながら、四人の兄弟は家事全般が得意になりましたし、兄は器用さも手伝って、素晴らしいアイデアで唸るような仕事をしてくれました。
とにかく、よく手仕事をする家族でした。
母も器用ですが、父の器用さは職人肌で、キチッと綺麗な仕事をするので、子ども心にうっとりと見惚れていたのを想い出します。
よく鋸の目立てをしていたり、大工道具を綺麗に手入れしていた姿が今も目に浮かびます。
まだ私が独身の頃、食事に誘われて兄が泊まっていた東京のホテルに行ったときのことです。
兄が父の想い出話をするのですが、私より6歳年上で男の視点から見た父の想い出は、私の知らない父の姿であって新鮮でした。
そして、兄もまた両親に満足をして、特に父親の背中を追いながら生きて来たというのです。
兄は他にやりたいこともあったでしょうが、父の生き様を見て「親父の気持ちの方が大事だ」と、22歳にして家業を継ぎました。
親父の気持ちと言っても、父は兄に何も言ったわけではありません。
とにかく寡黙で、働くのみの父でしたから。
きっと父は、戦争でいっぱい死んだ仲間たちのことを想うと、命があるだけで十分だと思っていたのでしょう。
だから、子どもたちにも何もいうことなく、背中だけ見せていたのだと思います。
父や母のお葬式で兄弟全員が集まった時にも、両親に感謝があるのみで、兄弟たちの仲が悪いわけでもなく、これだけで私はとんでもなく有り難いことだと思いました。
父の背中を中心に、母や兄弟が笑顔で生きてこられたこと。
そして、その子孫がまだ誰一人として亡くなっていないこと。
これも素晴らしいことだと思いました。
人間にとって、一番大事なものを両親からもらえて、私はなんて幸せなんでしょう。
あなたたちの子どもに生まれてよかった。
大変な中、産んでくれてありがとう。
育ててくれてありがとう。
心からそんな気持ちになれます。
なんだか、涙がブワーッと溢れて来ました。
お盆だから。
そう思うことにしておきます(笑)