「表土とウイルス」 船橋真俊氏の文章より新型コロナウイルスを考える

ネットの普及により、今の人は本を読まなくなったと言われる。
そしてまた、SNSの台頭により長い文章はスルーされやすいとも聞く。
しかし、昨日の記事もそうだが、多くの文字数を使わなければ伝わらないことがある。
次の記事もそうだ。

ーー表土とウイルスーー 2020.3.28

 
 

本当のところ、ウイルスって怖がるものなのか?
やっつけるものなのか?
敵なのか?
(私はかねがね共生するものと思っている。)

そこの大事なところを、素晴らしい文書力で教えてくれる記事なので、ぜひ頑張って全体を読んでほしい。
(『吾輩は猫である』を思い出しながら。)
読み終えた時には、新型コロナウイルスへの認識が変わっているかもしれない。
海水を見直すかもしれない。
そして、自分は何をするべきかが見えてくるかもしれない。

むそう塾生には、常々腸の中のことを伝えているので、、この文章を読んでイメージしやすいものがあると思う。
特に下記の「ウイルスの身になって考える」や、「海水と粘膜」の部分では、深くうなずいてくれるに違いない。

COVID-19は、人類が集団的に先送りしてきた課題を、たまたま顕在化してくれる立役者に過ぎない。」というメッセージを、深く理解できることが一番の解決方法のように思う。

 
 

ーーウイルスの身になって考えるーー 一部抜粋

私はウイルスである。名前はまだ無い。生まれてみたらウイルスだった。ウイルスというのはどうも自分一人では生きられないか弱い存在であるらしい。しかも生物なのか物質なのかさえはっきりしない。しかし私の面倒を見てくれる大家がいる。どうやら動物と言うらしい。我々一族がうまく繁栄していけるのも、ひとえに大家さんのおかげ…大事にしなくては。傷つけるなんてとんでも無い。ちょっと体の中を間借りして、仲間を適度に増やして外に出ていければそれで十分なのです。何なら大家さんの迷惑にならないように、おとなしいやつを選んで増やさせていただきます。むしろ我々の力を利用して強くなってもらえたならこれに勝る幸甚はありません。
(※進化の過程で、ウイルスによって新たな能力を獲得した生物種がいることがわかっている。また人間の皮膚常在菌や腸内細菌にも多様なウイルスが共生しており、人間の健康状態を支える一因とみなされている。)
それにしても最近の大家は体調が悪い。あちこちに病気を抱えているし、我々の天敵、免疫細胞もいまいち頼りない。何でも自然界では、この動物が増えすぎて困っているらしい。ここでどこからともなく声が聞こえる。
「弱い奴から殺していいぞ…」
私は驚いた。大家を殺すなんてとんでもない。いかに弱って病気だらけの大家でも、なんとか共に生きる道はないものか。声は続く。
「ウイルスよ、それはお前の独りよがりというものだ。この自然界には掟がある。お前もその中で生きている。病弱な動物が増えすぎたらどうなる?動物は、つまるところ植物を食べて生きている。植物はこの世界の物質循環を支え、地表の生き物を共存させている。そして植物が健全に再生するには、動物に食べられて消化管を通る必要がある。生態系の成長を駆動するリン酸・カリウムや微生物叢のタイムリーな分配と供給には必要なことだ。特に世界の陸地のおよそ4割を占める乾燥・半乾燥地帯では、強く健康な動物が群れをなして草原を駆け巡っていないと、徐々に砂漠化が進行する。お前にはこの世界の精巧なバランスを崩す権利はない。自然の掟に従え。」
わかりました、わかりましたよ。これまでなるべく大家に迷惑かけないようにしてきましたが、最近の大家は弱すぎて何が迷惑になるのかも良くわかりません。私なりに色々変化してみて、より良いバランスを保てるように頑張りますよ。
ちょうどその頃、大家が一斉に殺された。何でも人間という種に飼われた、家畜という動物だったらしい。その大家の大家とでもいうべき人間が、森を切り開いて動物を増やす施設を作り、その中にぎゅうぎゅう詰めにしていろいろな薬を使ったりしたらしい。どうりで大家は苦しそうだったわけだ。それにしても、我々一族ももはやバラバラだ。最近の子供たちは親に似ても似つかない。どうにかここから出ていく方法はないものか….そうだ、その人間とやらにちょっと乗っかってみよう。
どうやら大成功だ。人間の体内は凄まじく快適。邪魔するものが何もいない。こりゃ元の大家より弱いぞ。うーん、新しい大家を殺すのは忍びないが、自然の声も聞いたことだし、それにこの人間という奴はなかなかしぶとい。いくら死んでもキリがないぐらい大勢いるし、我々が咳やくしゃみで感染することを知ると、距離をとって拡散を防ごうとする。それならしばらく暴れても絶滅しないから問題ないだろう。少しの間だけ、この地球上で天下を取った気分を味わわせていただきますぜ。人間が打つ手がなくなったら、こちらも新しい大家として敬意を表して、穏やかな付き合いをさせていただきますぜ。何しろ、オレたちに史上初めて名前をつけてくださった大家様ですからね。
そこでまた自然の声が聞こえる。
「それでよい。人間も動物も植物も同じ命。微生物はさらにその祖先となる命だ。おまえたちウイルスの使命に変わりはない。おまえたちはそうやって、太古の昔から、全ての生き物たちの進化を支えてきた立役者なのだからな。気づいていないかもしれないが、その人間という種のゲノムを作る際にも、おまえたちの祖先が色々な遺伝子配列を組み込んで世話を焼いてくれたのだよ…」
人獣共通の宿主域を持つ新興感染症が生まれる典型的なシナリオを、自然界のウイルスの立場から人間の言語に訳してみたが如何だったろうか。彼らは暴君でも殺戮者でも無い。生態系の中で確固とした役割を受け持った、地球生命圏を支える謙虚な一員なのである。それを暴走させている根本的な要因は、どこにあると思われるだろうか?
ウイルスの多くは動物の呼吸器や消化管から排出される。その行き着く先はどこだろう。すぐ足元、自然界には土壌が広がっている。重力のある地球上でウイルスが必ず降り立つことになる土壌の表面で何が起きているか、ミクロの世界に分け入ってみよう。


 
 


(大阪府にて 中川善博iPhone撮影 2020.4.2)

 
 
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