料理の奥深さ(2) 庖丁を砥ぐ

今はステンレスの庖丁が出まわって、庖丁を砥げない人が圧倒的多数になってしまった。
仕方ないよね、学校で刃物から遠ざけるような指導がなされている時代だもの。
家には庖丁やまな板ややかんがない人もいるのだとか。
それはコンビニ食があるせいなのかも知れない。
しかし太古の昔から「切る」行為は生きるために不可欠だった。
今の私たちはどんどん「生きる」ことから遠ざかった暮らし方をしているように思えてならない。
むそう塾では幸せコースの最初の授業で庖丁の砥ぎ方を教える。
それは単に庖丁が研げるようになってもらうためだけではなく、庖丁の構造を知ってもらいたいためでもある。
食材を切ったり剥いたりするためには、まず庖丁の刃をよく理解しておかなければならない。
その上でどのように動かせば目的を達することができるのかを知ってもらうためである。
しかしこの庖丁砥ぎが結構難しい。
力で砥ぐと思っている人が圧倒的多数で、それゆえに男仕事と思っている人も多い。
ところが砥ぐ行為に力は有害ですらある。
優しく凪の心で砥石の泥で砥ぐ。
あとは平らを保つだけ。
これがまた難しい人がいる。
日常的に平らというのをあまり意識していないのかも知れない。
そのような場面が日常的にないのかも知れない。
今は義務教育でも重要視されなくなってしまったが、お習字をする前に硯で墨をする行為は、「書く」という行為以上に大事なことなのだと思う。
硯の陵(おか)の中央を凹ませてしまわないで墨をするのと同じように、砥石も中央が凹むような砥ぎ方は間違いである。
これでは絶対に正しい刃に砥ぎ上がらない。
学校で教えなくても、生きるために必要なことは教える。
それがむそう塾のスタンスだ。
中身のある人間になるために。

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