倉本聰氏の文章より

Twitterを通じて倉本聰氏の文章に出会いました。
北海道に生まれ育って農業の経験もある私としては、農業に対する倉本氏の視点に大きく共感します。
「北海道では、農地改革でばらまかれた土地が離農の裏で残った農家に集まり、再び大型化が進んでいる。」という倉本氏の文章は、まさに私の故郷の現実です。
農業ではなく工業のように感じます。
故郷にはもう昔ののどかな景色はなく、山は削られ、川は流れを変えて水量も減り、違った場所に来たかのような錯覚を覚えます。
「農業で人間は確かに変わる。」というのは本当です。
自然と向き合う農業は誤魔化しがきかないので、いやでも丸裸の自分を見つめることになるからです。
さらに倉本氏の「僕は爪の黒い人間を信用する。」という文章には大きく頷いてしまいました。
倉本氏の文章をそのままご紹介したいので、転載させていただきます。

【日本の針路 1】『滅びる石油文明 脚本家 倉本聰氏』 日本農業新聞4月10日
 環太平洋連携協定(TPP)交渉参加問題が大きなヤマ場を迎えている。5月の連休に日米首脳会談が開かれる可能性があり、同18、19日には主要国首脳会議(G8サミット)が予定されているためだ。緊迫感が高まる中で、「ふるさと危機?TPP反対キャンペーン第5部・日本の針路」では、各界の識者にTPP問題の本質や国民生活への影響、日本の進むべき道を問う。
 TPPをエネルギー問題と結び付けて考えてほしい。人類は石油を8000億バレル使い果たし、現在の埋蔵量は1兆2000億バレルといわれる。これは富士山で何杯分か。答えはわずか7分の1杯。これが全世界の石油タンクなのだ。その上、中国やインドなどがわれわれ並みの使い方をするようになり、たちまち残りは少なくなる。
 一方でメタンハイドレートといった新たな資源も実用化のめどは立っていない。加えて国内では原発が悲惨な状況だ。最優先すべきはずの原発事故の収束、震災復興もなかなか進まない中でTPP論議がどんどん進んでしまう。今の日本は手足がバラバラのままで突き進んでいる気がする。
 TPPは開国論議だが、現状を極端に言えば鎖国に戻りつつあると思う。論理的に考えれば将来的には石油が途絶える。石油がなくなれば流通は様変わりし、TPPのようなグローバルな交易は不可能になる。石油文明は滅びかかり、交易ができなくなる方向に時代は向かっている。
 北海道中富良野町で10ヘクタールを耕す50代の農家に、石油がなくなったらどうするのかと聞いたら「おやじだったら1ヘクタールはやるだろう」と答えた。なぜなら「おやじは馬を飼えるし、何より根性がある。俺はトラクターしか知らないし、土日は休みたい」と。
 北海道では、農地改革でばらまかれた土地が離農の裏で残った農家に集まり、再び大型化が進んでいる。大型、米国型の農業は工業化しないと持たない。石油におんぶした半分工業化した米国型の農業が広がり、古来の農業技術が伝わっていない。石油がなくなったら、農業そのものが分からなくなってしまう。農業はアグリカルチャー、文化だ。文化が伝承されないことはとても怖い。
・社会の画一化は危険
 米国発の金融とIT(情報技術)を結び付けた金融資本主義はバーチャル(仮想的)な世界だ。日本人は農耕民族であり ITでも金融民族でもない。ITも金融も、カネを介在させてものを食う。今は皆、食うものをどう作るかを知らずに食っている。直接食うものを作るのが 農耕民族だ。そこをもう一度たたき込まないと、人間はどんどんおかしくなっていく気がする。
 例えば日本の借金は900兆円を超えたというが、900兆円、これがよく分からない。100万円の札束は厚さが約1センチ、1兆円を積めば高さは10キロになる。1兆円の束を実際に見た人はおそらくいないだろう。10キロは対流圏と成層圏の間、航空機が飛ぶ高さだ。日銀の前に積めばその重さで地盤がずるずる沈み込み、やがて南米に届いてしまう。そんなバーチャルなものだ。
 1兆円の札束を握ったことない者が平気で900兆円と口にする。それを「おかしい」と思わなければいけない。それよりも、今晩の飯を何百円で買えるのか、そういうことの方が重要だ。そっちの方が大事なのに、今の日本はもっと大きな金もうけに目がくらみ、いろいろなところに手を出し始めている。
 最近、韓国の若手俳優と付き合う機会が多いが、皆ぴしっとしている。それは徴兵制があるからだと思う。今、日本に必要なのは“徴農制”だ。社会に出る前の2、3年間、農業を義務化することだ。脚本家や役者の育成のために「富良野塾」を開いてきた。塾生は2年間、農作業をやりながら学ぶが、脚本家や役者の育成という本来の目的よりも人間的な変化の方が大きい。農業で人間は確かに変わる。
 環太平洋連携協定(TPP)を推進する官僚たちは土をいじったことがない。農水省職員でさえそうだろう。爪の間が黒い人がいなくなってしまった。土をいじった経験がない者が、机上で農業のことを論じているのは非常に危険だ。僕は爪の黒い人間を信用する。
 昨年、来日したブータン国王の姿には品格を感じた。爪の中が見たいと思った。爪の中は黒いんじゃないかと。ブータンのようにチベットの奥地で幸せに暮らす人々に「あなたたちは貧しいから、携帯がある、インターネットがある」と売りつけ、結局不幸にしてしまう。余計なお世話をして社会を画一的にしてしまう、それが米国が進めるグローバル化、TPPではないか。
〈プロフィル〉 くらもと・そう
 1935年、東京都生まれ。77歳。東京大学卒業後、ニッポン放送勤務を経て63年に脚本家として独立。77年に北海道富良野市に移住後、富良野塾を設立。植樹活動にも力を入れる。「北の国から」など代表作多数。
 


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